「泣かされた…。」
私たちがセラピスト養成学院を始めたばかりのころ、10人ほど集まったプロコース第1期生の卒業試験でのことです。
半年の学びの最終となる試験では、実際に指導員が学院生の施術を「患者」として受けるのですが…私たちの心を大きくうごかす学院生があらわれたのです。
試験当日、私たち指導員を泣かせたのは、一番不器用だった学院生。
体が硬くて指定された体勢がうまく取れない。長時間の施術練習になると自分の腰が痛くなる。問診では相手の話をうまく引き出すことができない。
そんなAさんの施術はお世辞にも上手いとは言えないけれど、
懸命さや相手に対する思いやり、いろいろな気持ちが、彼の手から私たちの身体に伝わってくるものでした。
まだデビューもしていない、学び始めたのはわずか半年前で、実際に患者さんを診たこともない、そんな学院生の施術を受けて涙する。
かれこれ10年以上も前の出来事ですが、セラピスト養成学院の卒業試験が近づく度に思い出される光景です。
施術は、
「施術家と患者が一体となって命(いのち)の交流をおこなうもの」
これは、師匠の教えです。
命は、「五感」です。
私たちは、目、舌(口)、鼻、耳、身体(意識)など、さまざまな感覚をもって生きています。
しかし、私たちは感覚よりも頭や言葉に頼り、自分の内側(身体)ではなく、外側に意識が向きやすい環境にあります。
そのため、現代を生きる私たちは、テレビやスマートフォンをみながら人と喋ったり、他事を考えながら仕事をしたり、過去の自分を悔やんだり、未来の自分に希望を願ったり…
人生のほとんどの時間が「頭の中の自分」を生きており、
今この瞬間にある「肉体をもつ自分」を生きていない。
冒頭のAさんの施術は、20分という短い時間でしたが、
「今、自分ができることのすべてを相手に向ける」その姿勢が、相手の心をうごかし、勝手に涙が出る、そんな体の反応を引き起こしたのかもしれません。
とくに、今ここにあるものしか触れられない皮膚感覚は、私たちを「今この瞬間」に集中させてくれます。
あらためて、インターネットやSNSでは体感できない「触れる・触れてもらう」という行為の可能性や奥深さを感じます。
なんだか落ち着かないとき、大切な人が悲しんでいるとき…
ぜひ、ご自身の体や大切な人に静かにそっと触れてあげてくださいね。
追伸:
季節の変わり目や環境の変化で、落ち着かない状況の方もあるかもしれません。
困ったときはいつでも、FMT整体にいらしてくださいね。変わらずお待ちしています。
皆さま、どうぞご自愛ください。